「開業費って、どういうものが該当するの?」
「節税のためにも開業費をうまく利用すべきって聞いたけど、どういうこと?」
「開業費って費用なのに償却できるの?仕訳を教えてください。」
確かに会計に不慣れな方には、開業費って分かりづらいですよね。
ゆるり会計士@海外在住
私は公認会計士で、現在は海外在住ですが、日本と海外で10年以上税務業務をクライアントに提供してきました。
- 開業費は、開業前の費用だけど開業後の経費として使える費用のこと。節税のために大事なアイテムです。
- 具体的には、新規事業の学習費用やホームページ作成費用など、開業前の準備活動に要した費用が該当します。
- 開業費は最初は繰延資産に計上します。その後は任意償却でき、開業費の全部または一部を好きな年に経費処理できます。
なお、開業費のメカニズムを理解しておくことは重要ですが、実務上は次の点がさらに重要。
それは、事業のための開業前の支出があったら、レシートなど支払いの記録をきちんと取っておくことです。
ゆるり会計士@海外在住
本記事で開業費の処理を覚えて、手元に少しでも多くのお金を残すようにしましょう。
目次
開業費とは?
開業費の定義
開業費は繰延資産の一種で、「不動産所得、事業所得又は山林所得を生ずべき事業を開始するまでの間に開業準備のために特別に支出する費用」(所得税法施行令第7条)をいいます。
ゆるり会計士@海外在住
通常であれば経費になる費用が、開業前に発生した場合は「開業費」と呼ばれる、そんな風に理解しておけばOKです。
開業費は「繰延資産」
さて、開業費は、経費にできる普通の費用とは違って、繰延資産として資産に計上する項目になります。
そして繰延資産として計上した金額は、毎年の決算で償却費として経費にすることができます。
つまり、開業費は開業前の支出なのに、開業後に経費として使えるということです。
では、なぜ普通の経費と違ってこのような特別な処理をするのか?
それは、開業前の準備費用は、開業年度だけでなくそれ以降の年度にも便益をもたらすと考えるためです。
開業費の範囲
では、どういう支出が開業費になるのでしょうか?
まず大原則は、個人事業主の場合、その後に開始する事業と関連する支出だということです。
毎日の食費とか、事業に関係ない支出が開業費にならないのは当然ですよね。
また、開業後であれば経費になるような項目が開業費になります。
開業前の仕入費用や10万円以上する備品は、それぞれ棚卸資産、固定資産になります。これらは繰延資産にはなりません。
開業費の具体例
具体的には、どのような項目が、開業費に該当するのでしょうか?
開業費に該当し得る支出としては、たとえば以下のようなものがあります。
- 広告宣伝費
- 打合せのための旅費交通費・飲食費
- 事務所等の家賃
- 賃借の仲介手数料
- 市場調査費
- 開業のためのセミナーへの参加費用
- 通信費用
- 開業までの借入金利子
- パソコン購入費用 (金額によっては固定資産扱いになります)
- 名刺やロゴなどの作成費用
ゆるり会計士@海外在住
開業費は、いつまで遡って計上できるか
ちなみに開業費は、どのくらい古いものまで認められるんでしょう?
特に何年までというルールはありません。ただ常識的に考えて、何年も前の支出が、いま開始した事業のためだと主張するのは難しいでしょう。
言い換えると、過去の支出を開業費として取り扱うためには、客観的に説明ができるような証拠書類を残しておくことが重要です。
開業費のメカニズム: 好きなときに償却できる特別な費用
ここから、少しだけ難しい話になっていきます。
ゆるり会計士@海外在住
他の費用や棚卸資産・固定資産との違い
まず通常の費用は、発生したときに経費として処理されます。
例えば毎月のサーバ代を払った場合、請求を受けた時点で経費として取り扱われます。
また、資産を購入した場合も、次のように、経費処理できるタイミングは予め決まっています。
- 棚卸資産(商品など): 売れたときに経費処理
- 固定資産(10万円以上のパソコンなど): 資産計上したうえで、毎年の決算時に減価償却して経費処理
(*青色申告の場合、30万円未満の固定資産は経費処理が可能です。)
固定資産の減価償却とは、机やパソコンなど、複数年に渡って使えるの固定資産を買った場合の仕訳です。
買ったときに全額経費処理するのではなく、使用できる期間にわたり少しずつ経費処理していくのが減価償却の趣旨です。
たとえばパソコン(サーバ用以外)の税務上の耐用年数は4年と決まっています。
2020年1月に買ったパソコンであれば、2020年から2023年の4年間で、定率法または定額法により、減価償却していきます。
繰延資産は任意償却が可能
これに対して、開業費は「繰延資産」というカテゴリーの資産になります。
繰延資産も、上記の固定資産と同じように償却して経費化していくのですが、償却方法が少し違います。
繰延資産の償却費の計算は、60ヶ月の均等償却または任意償却のいずれかの方法によると決まっています(所得税法施行令第137条第1項第1号、第3項)。
ゆるり会計士@海外在住
開業した年に全額償却してもいいですし、開業した年には全く償却せず、その後の好きな年に償却しても構いません。
例えばですが、20万円の開業費があったとして、20万円の繰延資産を計上したら、どうなるか。
1年目の決算時は0円、2年目は5万円、3年目は15万円などと償却して、経費化していくことができます。
仕訳にすると、次のような感じですね。
開業時
(開業費) 200,000 / (元入金) 200,000
2年目の決算時
(償却費) 50,000 / (開業費) 50,000
さて、節税のためには、以下が基本的な考え方になります。
(1) 所得が十分に発生せず赤字になる年
⇒開業費を償却してもその年の所得税を減らせないので、償却せずに翌年以降に繰り越します。
(2) 黒字になっている年
⇒決算時に繰延資産の償却を行って経費を増やし、課税所得を圧縮しましょう。
つまり、所得が十分に発生せず赤字になる年には償却せずに、所得がたくさん発生している年に償却することにより、節税が可能になります。
開業前に発生した費用が将来必ず経費として使える制度なので、うまく計画的に使っていくことが大事になります。
なお青色申告をしている場合、赤字を翌年以降3年間繰り越すことができます。
なので、開業費を多めに償却して所得をマイナスにしたとしても、翌年以降に繰り越せます。
ただし、繰り越しできるのは3年間までなので、やはり不必要に多く償却してしまうのは避けたほうがよいでしょう。
なお、青色申告をするには、事前に青色申告承認申請書を提出する必要があります。
開業freeeというソフトを使うと、簡単に申請書の作成・提出ができるので、利用すると楽です。
青色申告承認申請書の書き方や、開業freeeの使い方については、以下の記事をご参照ください。
>> 青色申告承認申請書の書き方【3つの落とし穴に注意】| 記入例あり
>> 開業freeeは評判以上に便利!使わないと損する理由3点を会計士が解説
会計ソフトでの開業費の処理
開業費やその償却額を帳簿や決算書などに記載するのは、会計の経験がない方には難しいと思います。
ただし、会計ソフトを使えば、仕訳入力すれば自動で必要な転記をしてくれるので、簡単です。
ゆるり会計士@海外在住
会計ソフトによって開業費の入力や処理の仕方は違います。
ここでは、例として会計freeeの場合の処理の流れを、以下にて説明します。
(1) 「設定 > 開始残高の設定」と進み、開業費の開始残高を記入します。
開業費の開始残高というのは、開業時点までに発生した開業費の合計額の意味です。
これまでの開業費を集計して算出された合計額を入力していきます。
(2) 続いて「確定申告 > 固定資産台帳 > 登録」と進み、固定資産台帳に開業費を登録します。
ここは入力する項目が多くて難しいですね。
以下のサンプルを参考にしてください。
償却方法の箇所で、任意償却を選択するのがポイントですね。
任意償却を選択しておくと、次の画面で今年償却したい金額を事由に決めることができます。
(3) 最後に「今年度の償却 > 償却費を編集」と進み、今年償却したい金額を入力します。
以上で開業費の償却の処理は完了になります。
ゆるり会計士@海外在住
会計freeeの公式サイトにも同様の解説記事があります。
上記の入力をすることにより、青色申告決算書の貸借対照表には開業費の今年末の残高が記載されます。
また本年に償却した金額があれば、その金額が「減価償却費の計算」に記載されます。
まとめ
以上で、個人事業主の開業費について解説しました。
開業費がどんなものかや、会計処理などがお分かり頂けたかと思います。
ゆるり会計士@海外在住
途中で会計ソフトをご紹介しましたが、開業費があるなら、会計ソフトを使って記録しておくと簡単です。
上記で紹介したように、会計freeeを使うと簡単に開業費の処理ができます。
>> 公式会計freee
最後に、開業届の提出について知りたい方は、以下の記事をご参照ください。